3つの指数の性質を比べると、シンプソンの指数は優占度の高い種の影響により値が小さくなるという傾向があります。それに対して種数は相対優占度の低い種が多いと値が大きくなる (相対優占度が0.001の種でも1だから当然ですね) 傾向があります。シャノンの指数は2つの中間的な性質を持っています。
多様性と均等性と集中度
ここでは多様性指数と関連した指数として、均等性の指数と集中度の指数について説明します。
上記のとおりよく使われる多様性指数にはS, 1/D, H'があります。ここでは均等性を加味した多様性指数である1/dと
シャノンの指数H'よりも
種数が S で全ての種の相対優占度が同じ時は、d は S と同じであり、種数が S のときの最大値をとるため、生態学的な意味と関連して考えやすいためです。
例えば、S=10のときに全ての種が同じ優占度を持つとき、1/d=10です。逆に、S=10であっても1種だけの優占種が極端に大きく他の種の優占度が極端に大きければ、1/dは1に近づく。このように、S=10のとき1/dは1から10までの値をとります。一般化すれば1/dの範囲は1からSまでです。
集中度は多様性指数の逆数(d)で、dの範囲は1/Sから1までです。
種数Sの資料において、全ての種の優占度が等しく1/Sであるとき、集中度の値が種数(S)によって異なるのが欠点だと考えています。
ある程度種数(S)が大きいときは変換する必要はありませんが、できれば範囲が0から1までになるように変換した方が良いのではないかと考えています。
種多様性 = 均等性 * 種数
均等性 = 種多様性 / 種数
種数 = 種多様性 / 均等性
集中性 = 1 / 均等性
集中性 = 1 / 種多様性 / 種数
集中性 = 種数 / 種多様性
種数自体は計測可能な値であるので、指数というものではない。計算式というのはない。多様性指数を固定するならば、均等性指数は上記の定義から求めることができる。そこで、一旦考え直す。均等性とは何ぞや?
S n n
D 1--n 1/n--1
E 1/n--1 1/n^2
種数を考慮した均等性
種数を考慮した集中性
種数を考慮しない均等性
種数を考慮しない集中性
α多様性・β多様性・γ多様性
まず、ある環境傾度(標高傾度とか乾湿傾度とか)に沿って生物群集が成立している場合を想定します。
このときの環境傾度のある地点における単位面積あたりの多様性のことをα多様性といいます。種多様性というときは、このα多様性のことをさしている場合がほとんどです。
これに対して、ある特定の環境傾度に沿って種が変化していくときの種組成の違いの程度をβ多様性といいます。
また、環境傾度全体での多様性のことをγ多様性といいます。
数式で定義すると次のとおりです。
γ = α * β
β = γ / α
実際に考えるために、例として次のような2つの山における種の分布について考えます。
A山
標高 |
種a |
種b |
種c |
種d |
種e |
種f |
種g |
-600m |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
-700m |
|
○ |
○ |
○ |
|
|
|
-800m |
|
|
○ |
○ |
○ |
|
|
-900m |
|
|
|
○ |
○ |
○ |
|
-1000m |
|
|
|
|
○ |
○ |
○ |
|
|
B山
標高 |
種a |
種b |
種c |
種d |
種e |
種f |
種g |
-600m |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
-700m |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
-800m |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
-900m |
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○ |
○ |
○ |
|
|
|
-1000m |
|
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
丸印がついているところではそれぞれの種が同一面積の調査地点において出現したとします。ここで、A山のB山のどの地点(標高)においても、3種ずつ出現しているのでそれぞれの山におけるα多様性である種密度(種数)の平均値は3です。
γ多様性はというと、それぞれの山での総出現種数がγ多様性になるので、A山では7、B山では4です。
β多様性は上の式から計算して、A山では約2.3、B山では約1.3です。
このように単位面積あたりの多様性であるα多様性が同じばあいならば、全体の多様性であるγ多様性が高いほうが、β多様性も高くなります。
additive partitioning of diversity
α・β・γ多様性というのはある特定の環境傾度上における種の移り変わりには適用できますが、特定の環境傾度上にない場合の種の分布などには適用できません。例えば道路法面と田んぼと水路と山などというように土地利用が異なる地域での多様性を考える場合です。また、α・β・γではαより小さい規模での多様性やγより大きい規模での多様性というものは想定していませんので、空間の広がりにおける種の多様性を明らかにするのには不向きです。
このような空間の広がりにおける多様性を明らかにするための考え方として、additive partitioning of diversity という考え方があります。diversity を部分に分けて追加していくというものです。
例えば、 quadrat, patch, habitat, region という4つの規模の異なる土地の広がりを考えます。
具体的には、ある地域(region)において棚田が広がっているとします。この中には、habitat として水田・畦畔法面・あぜ道の3つがあります。それぞれの habitat はすべてがつながっているわけではなくて、他の土地利用によって分断されています。その分断された一つ一つが patch です。水田というhabitatでは1枚の水田が1つの patch です。最終的に調査するのは patch 全体ではなく、その中に1m*1mといったような quadrat をいくつか設置します。
逆に見ていくと、quadrat のいくつかの集まりが patch 、 patch のいくつかの集まりが habitat 、 habitat のいくつかの集まりが region というぐあいです。
そして、多様性を考える場合には、次のように within-diversity と between-diversity を順次考えます。それぞれの within-diversity と between-diversity の合計が上位の within-diversity になっていきます。ここでは region までしか考えていませんが、さらに広い規模での多様性も当然同様に考えることが可能です。
within-quadrat diversity (Wq)
between-quadrat diversity (Bq)
within-patch diversity (Wp) = Wq + Bq
between-patch diversity (Bp)
within-habitat diversity (Wh) = Wp + Bp
between-habitat diversity (Bh)
within-region diversity = Wh + Bh
(between-region diversity)
...
実際の計算は次のようにします。
scale |
species richness |
within- diversity(average) |
between- diversity |
habitat |
28 |
28 |
- |
patch |
12 |
15 |
11 |
16 |
17 |
14.2 |
13.8 |
quadrat |
5 |
4 |
6 |
3 |
7 |
9 |
11 |
8 |
12 |
11 |
13 |
12 |
13 |
10 |
11 |
7 |
7 |
6 |
8 |
9 |
11 |
10 |
13 |
12 |
14 |
9.3 |
4.9 |
within-quadrat diversity は quadrat あたりの species richness の平均値で、9.3です。within-patch diversity は patchあたりの species richness の平均値で、14.2です。between-quadrat diversity は within-patch diversity と within-quadrat diversity との差になるので、4.9です。
この考え方はまだあまり日本では浸透していないようです。計算方法などはLande(1996)を参考にしてくださ。Veech et al.(2002)はこの考え方の総説です。Wagner et al.(2000)とWagner & Edwards(2001)とVandvik & Birks(2002)は実際の研究で使われている例です。
多様性と均等度
参考文献
森下正明.1996.種多様性指数に対するサンプルの大きさの影響.日本生態学会誌,46,269-289.
小林四郎.1995.生物群集の多変量解析.蒼樹書房.
Lande,R..1996.Statistics and partitioning of species diversity, and similarity among multiple communities.Oikos,76,5-13.
Veech,J.A., Summerville,K.S., Crist,T.O. and Gering,J.C..2002.The additive partitioning of species diversity: recent revival of an old idea.Oikos,99,3-9.
Wagner,H.H., Wildi,O. and Ewald,K.C..2000.Additive partitioning of plant species diversity in an agricultural mosaic landscape.Landscape Ecology,15,219-227.
Wagner,H.H. and Edwards,P.J..2001.Quantifying habitat specificity to assess the contribution of a patch to species richness at a landscape scale.Landscape Ecology,16,121-131.
Vandvik,V. and Birks,H.J.B..2002.Partitioning floristic variance in Norwegian upland grasslands into within-site and between-site components: are the patterns determined by environment or by land-use?.Plant Ecology,162,233-245.
多様性はなぜ大事か?(料理にたとえた説明)
まずはじめに、「多様性はなぜ大事なのか?」について考えます。物事の説明に困ったら、料理に物事をたとえるとうまく説明できる場合があります。多様性についても料理を例にして考えると、次のような説明(本当に説明になっているのか?)ができます。
毎日毎日、朝・昼・晩と3食ともご飯と味噌汁と鯖の塩焼きだけを食べるのはいやですよね(鯖が嫌いとかではなく)。それよりは鯖の塩焼きと鯵の塩焼きと鮭のバター焼きと鰆の味噌漬の焼き物・・・・を日替わりで食べる方がいい(少なくとも僕は)。
さらに、焼き魚だけでなく、牛肉・豚肉・鶏肉・カエルの肉・・・・と(魚も含めて)肉の種類も増えればなおうれしい。
もっと言えば、焼き魚だけでなく煮物・揚げ物・生物・・・・と料理の仕方も増えるともっともっとうれしい。
さらに、ご飯だけでなく、うどんも組合せて・・・・・。
以上が多様性はなぜ大事かを料理にたとえた場合の説明です。
説明になっているでしょうか?
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